肥満が骨格筋の機能に与える影響

 正常な体重よりも太っている状態を「肥満」といい、肥満は、世界各国で健康問題を脅かす重篤な疾患として蔓延している状況にあります。日本も例外ではなく、食生活の欧米化や交通網の発達などによる身体活動量が低下した状況が、この肥満の罹患者を増加させ、生活習慣病発症の引き金となります。今後、肥満の患者が高齢化することで健康寿命の短縮が懸念されるため、肥満や肥満に関係した疾患に対する適切な予防法や治療法の開発が急務な研究課題です。

 

 肥満患者では、骨格筋の筋量や筋力の減少が進行することがいわれており、この要因は寝たきりのリスクを高め、要介護者の増加の一因と推察されています。これまで、肥満による筋力低下の要因は、筋量の減少が根本的な原因として考えられてきた一方で、最近、肥満患者で骨格筋の筋量が同一でも筋力の低値を示すという筋肉の質の低下が生じることが報告されつつあります。しかし、何故肥満による筋質の低下が起きるのか?その機序はよく分かっていませんでした。

 私たちの研究室では骨格筋の質を反映する筋力を指標に高脂肪食摂取した「肥満」の動物モデルのマウスを対象にして以下の成果を得ました。

  • 短期間では筋力低下は起きないが、数カ月の高脂肪食摂取した肥満マウスの骨格筋は筋力低下が起きる(Eshima H, (2017), Physiol Rep.)。

 次に肥満が筋力低下をどのようにして起こすのか?という疑問を明らかにするために筋収縮に関わるカルシウムイオン(Ca2+)に着目し、実験を行いました。   

 筋が収縮する際、細胞の中の代謝産物であるCa2+が一時的に上昇し、筋肉が緩む際はこのCa2+が安静時まで減少します。このCa2+の変動が肥満の骨格筋によって変化していると仮説を立てました。

 細胞内Ca2+を測定するために蛍光で光らせ、その蛍光をとらえる専用の顕微鏡を用いてその動きを観察しました。マウスから摘出した骨格筋を一本上の筋線維にし、 Ca2+特異的な蛍光プローブを導入させ、Ca2+のレベルを蛍光画像によって比較定量致しました。例えば筋肉が収縮すると細胞内にCa2+が放出されるため、高濃度レベルに達します。

 

 この手法を用いて肥満時の Ca2+レベルを測定すると肥満時は筋収縮時のCa2+レベルが低値を示していました。このことから、肥満による筋力低下の要因にCa2+レベルの低下が関係していることが考えられます。

 以上の成果から肥満になると骨格筋自体の筋力、筋質が低下し、これが筋肉の量が減ることやひいては寝たきりや転倒そして要介護につながる恐れがあります。 その要因にCa2+が関係することを突き止めました。今後、Ca2+を標的とした肥満の新しい治療薬をつくる可能性を見いだす画期的な研究成果といえます。