私達の体内に必要な酸素。この酸素が細胞や組織に過剰に結びつくと、身体にダメージを与え、いわゆる細胞が錆びつく現象である「酸化ストレス」を引き起こします。この酸化ストレスは肥満、糖尿病、加齢そして身体不活動などの様々な要因による骨格筋の量と質の低下に関係していることが明らかにされています。

酸化ストレスは「活性酸素」と呼ばれる酸素がより活性化し、非常に不安定な反応生成物によって起きることが分かっています。しかし、活性酸素は広大で複雑なラジカル種の総称を指すため、 どんな活性酸素が、どのようにして骨格筋の量と質を低下させるのかは完全には解明されていません。

わたしたちは、活性酸素が一番発生しやすいと呼ばれるミトコンドリアに注目し、ミトコンドリア内の活性酸素を抑えるカタラーゼを全身で過剰発現させたマウスを用いて実験を行いました。すると、予想外にカタラーゼを過剰に発現させるマウスは通常のマウスと比べて後肢懸垂(身体不活動モデル)後の筋肉量と筋力における減少の差は変わりませんでした(Eshima et al. (2020). J Apply Physiol.)。つまり、ミトコンドリアによる活性酸素は身体不活動による骨格筋の量と質の低下に関係しない可能性が考えられます。
では、どの活性酸素が骨格筋の量と質の低下に関係するのか?現在、私たちは脂質から発生する活性酸素の過酸化脂質に注目しています。過酸化脂質は古くから様々な病態原因や細胞毒性の因子として研究対象とされてきたものの、最近、新しい細胞死システムを担うことが分かってきました。リン脂質の過酸化に起因した鉄依存性細胞死機構の「フェロトーシス」は多数の疾患と関連付けられてきていることが分かってきました。

最近、我々はサルコペニアに筋萎縮が関与することを明らかにし、高齢者でフェロトーシス抑制遺伝子のGpx4が減少し、脂質アルデヒドを抑制すると加齢による筋萎縮と筋力低下が改善することを見出しました(Eshima et al. (2023). Elife.)。次なる課題として、疾患などの他の筋萎縮との関連性や、リン脂質の過酸化の抑制が筋萎縮の抑制につながるのか研究を進めています。

